このブログは「失敗から始める水中レタッチ」というタイトルですが、なにも失敗をごまかすためにレタッチするわけではありません。
どうしても撮影時に意図した通りに撮影できなかったけど、見たときに感じた思いをどうにか表現したいという表現方法の一つとしてレタッチするのです。
「撮ったままから、感じたままへ」を目指して、ときには自分の思いを爆発させて大胆にレタッチするのも良いと思います。
今日はそんな作例を紹介します。
Contents
サムライのような渋くてかっこいい写真をめざす
今回の被写体は、モヒカンのような皮弁がかわいいシズミイソコケギンポです。
穴からひょこっと顔を出しているところもかわいく、被写体として人気のあるお魚です。
この穴から出ている感じとモヒカンのような皮弁を表現したいので、私は上の写真のように横から撮るのが好きなのですが、今回は正面から撮影してみました。
それが下の写真ですが、この写真を撮ったときに感じたのは、「隻眼のサムライのようでかっこいい」でした。
隻眼(せきがん)というのは、片目を失った状態のことです。ワンピースのゾロのようなイメージです。
今回はそんな思いをレタッチで表現します。
日の丸構図で被写体の力強さを強調
写真をやっていると、日の丸構図は良くないと言われることがありますが、被写体を強調したいときには効果的です。
日の丸構図にする場合、中途半端に中心からずれているのは良くないので、しっかり中心に被写体を配置するようにします。
とはいっても、波で揺れる水中では完璧に中心に配置するのは至難の業なので、トリミングで補正します。
トリミングした写真がこちらです。中途半端な構図だったのがすっきりしました。
円形フィルターで被写体に視線を向ける
トリミング後の写真を見ると、周辺のピンクの岩の部分が被写体のギンポより明るめになっています。
写真を見たとき、人の目線は明るい部分に向かうので、強調したい被写体より明るい部分があると、何を見せたいかわからない写真になってしまいます。
今回は日の丸構図なので、中心に視線を向かわせるように、円形フィルターを使って周辺の露出を下げます。
下の画像のように円形フィルターで被写体の周辺を選択しました。
補正値は、下記のように、露光量を下げてさらに明るめの部分を抑えるためにハイライトをいっぱいまで下げています。
- 露光量 -0.63
- ハイライト -100
これだけで結構渋い感じになってきて、目指す写真に近づいてきました。
コントラスト調整で写真全体を締める
円形補正で周辺の明るさを抑えましたが、全体的に影が強調された暗めの雰囲気にします。
設定値は下記のようにしました。
- ハイライト-35
- 白レベル-30
- 黒レベル-25
- シャドウ-35
低彩度で男らしさを演出
次が今回のレタッチのメインです。
燻し銀の渋いサムライのイメージにしたいので、彩度を下げます。
かわいらしさや水中の華やかな色を表現するために彩度を上げることは多いと思いますが、今回のイメージは渋さなので、彩度を下げるのが効果的です。
レタッチは自分の感じたイメージを表現する手段なので、闇雲にやるのではなく、どんなイメージにしたいかはっきりさせて取り組むことで、何を変えるべきかが見えてきます。
今回は下記のように設定しました。
- 彩度-42
- 黒レベル-15
メインは彩度ですが、彩度を下げたことで写真全体がぼんやりした雰囲気になり、目指すイメージより軽い感じになったので、黒レベルを下げて引き締めました。
補正ブラシで眼の力強さを表現
この写真を撮った時、一番に感じたのは、視線の強さです。
片目だけがしっかり開いているように見えることで、隻眼のサムライの鋭い視線を感じます。
でも、ギンポの眼は光を反射しやすく、どうしても薄い色になってしまうので、補正ブラシで眼の黒い部分だけを選択して、より黒を際立たせます。
このとき、黒い部分だけを選択し、眼に映った白い光は選択しないようにしました。
眼に入ったストロボの光がキャッチライトになり鋭い眼光を表現しているので、ここは残すようにしたかったからです。
細かい部分の作業なので、下の画像のように拡大して作業するとやりやすいです。
細かい作業と言っても、そんなに厳密には選択していません。多少境界をはみ出すくらいの方が自然な感じになります。
補正ブラシで選択した部分の設定は下記のようにしました。
眼の黒を強調したいので、露光量と黒レベルを下げています。
- 露光量-0.51
- 黒レベルー18
完成形
眼の部分補正をして完成した写真がこちら。
低彩度の渋いレタッチにすることで、撮影したときに感じた「隻眼のサムライのかっこよさ」を表現できました。
生物を撮影した写真は、ネイチャー記録のように考えられることが多く、ありのままを表現するべきという雰囲気もありますが、写真はもっと自由でいいと思います。
被写体が何であれ、被写体は自分が表現したい作品の材料の一部なのです。
その材料を撮影とレタッチでどう料理するかが自分の作品を作るということだと思います。